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2024
羽黒山 出羽三山神社
羽黒山再訪
前回、羽黒山を訪れたのは3年前の2021年の夏で、芭蕉の奥の細道を辿る旅の一環として羽黒山と月山から湯殿山の三山を巡った.初日の羽黒山では、折り悪く途中で雨が降り出してしまい、石畳の参道や出羽三山神社の境内をゆっくりと見て回ることができなかったので、もう一度羽黒山周辺をゆっくり歩いてみたいと思っていた.
月山ビジターセンターのホームページを眺めていたら、羽黒山の周辺の山中に例年よりも早くアカショウビンが飛来して『キョロロ』ボイスを響かせているというニュースが載っていたので、アカショウビンの声が聞きたくなり急遽羽黒山を再訪することにした.
昨年の11月に酒田を訪れたときと同じ経路で、日本海のきれいな海岸線を眺めながら羽黒山の玄関口である鶴岡で列車を降りた.丁度この日は鶴岡天神祭祭(通称化けもの祭り)が行われており、鶴岡駅前のメインストリートは手ぬぐいと編み笠で顔を隠した踊り子さん達でいっぱいだった.
今回は早朝に羽黒山周辺でアカショウビンの鳴き声の収録をしたかったので、羽黒山の麓にある休暇村羽黒に泊まることにした.休暇村羽黒にはとてもきれいなキャンプ場が併設されているので、できればテント泊をしたかったのだが、今回は機材が多いのでテントの持参は諦めて、本館の宿泊施設に泊まることにした.
チェックインを済ませた時点で夕方の4時近くになってしまったので、この日の野鳥探しは諦め、とりあえず月山ビジターセンターに立ち寄って周辺の自然情報や野鳥の状況などの情報を収集することにした.アカショウビンが出現する可能性の高い場所は餌となるモリアオガエルが多い場所のようなので、モリアオガエルの状況も聞いてみた.
今の時期はモリアオガエルの産卵には少し早かったようで、ビジターセンターの方から出羽三山神社の本殿前の鏡池のほとりの木の枝に1つだけ卵胞が着いていると聞いたので、鏡池の様子を見に行くことにした.
日没まではまだ少し時間があるので、野鳥の録音に良さそうな場所の下見も兼ねて芭蕉と曽良が滞在していたという南谷を訪れることにした.ビジターセンターの下方100mくらいの場所に荒澤寺という修験道の根本道場のお寺があり、その山門の前から頂上の出羽三山神社へ向かう古道が残されている.この古道は羽黒山から月山向かう際の修験道の道だったが、現在はほんの一部が部分的に東北自然歩道として残されているだけのようだ.
羽黒山の頂上へは月山有料道路が通じているので車で簡単に行くことができるが、勿論そんな鬱陶しい道路には目もくれずにこの森の中を古道を使って頂上の出羽三山神社までお散歩することにした.
頂上に向けて登っている途中に左手に折れる山道を見つけた.前回の羽黒山の参道を歩いて登った際に、三の坂手前で右に折れる形で南谷へ向かう道があることは知っていたが、今回は事前にこの古道の下調べをしていなかったので、南谷から直接荒澤寺へ向かう道があることは知らなかったのだが、この道の方向からして南谷へ通じているのではないかと考え、とりあえずこの山道に分け入ることにした.
森の中を彷徨う感じの鬱蒼とした暗い山道だったが、踏み跡はそれなりに付いているので、この道が南谷へ向かう道でなければ地元の手向(とうげ)集落から頂上へ向かう山道ではないかと思い、とりあえず道なりに山を下って行った.
.程なく道の傍らに古い苔むしたお墓のような石塔が並んでいる場所に出た.昔は南谷にお寺があったそうなので、恐らくこの辺りが南谷なのだろう.石塔のある場所からもう少し降りていくと少し開けた場所に出た.小さな浅い池があり、近くに『天然記念物 南谷カスミザクラ』と記された標識が立っていたので、どうやらここが南谷のようだ.標識の近辺でそれらしき桜の木は見当たらなかったが、昔はこの場所に大きな山桜の樹があったようだ.
(追記:標識の直ぐ後ろの木がカスミザクラだった.一見すると樹木の表皮が老化していて桜には見えなかったが、よく見ると桜の木だった.不自然に一本だけ残っている細い老木のようだったが、春には花を咲かせるのだろうか?)
南谷にはアカショウビン狙いのカメラマンが居るのではないかと予想していたが、誰も居らず辺りはひっそりとしていた.南谷周辺は予想よりも荒廃していて鬱蒼としており、朽ちて果てて潰れた状態の四阿の残骸が痛々しかった.句碑らしき大きな岩があったが、刻まれている文字をハッキリとは確認することができなかったが、芭蕉がこの地で詠んだとされる『ありがたや雪をかほらす南谷』の句碑だろう.芭蕉のファンでもなければわざわざこの様な場所を訪れたりはしないだろう.
南谷周辺でも野鳥の気配が殆どなかったので、南谷を離れ表参道を経由して頂上の出羽三山神社へ向かった.杉並木の石段の参道の途中ですれ違ったのはたった一人だけだった.この日は鶴岡天神祭で羽黒山周辺の観光客はいつもよりもかなり少なかったようだ.前回はあまりにも多くの観光客とすれ違ったが、この日は観光客を気にすることもなく静まりかえった境内をゆっくりと散策することができた.
前回訪れた際は、出羽三山神社の本殿が足場に覆われていてその外観を窺い知ることができなかったが、今回は一部でまだ足場が残されてはいたが、本格的な茅葺き屋根の立派な本殿を間近に見ることができ、その偉容に圧倒された.
観光客が居ないひっそりとした本殿の前にある鏡池では蛙の鳴き声だけが静かに響き渡っていた.池の畔の木の枝にモリアオガエルの卵塊を1つだけ確認することができた.夕暮れの時間帯だったためか、鏡池の周りにはバーダーさんが一人居ただけだった.このバーダーさんが撮影したというアカショウビンの画像を見せて貰った.このバーダーさんと野鳥の話をしながら、暫くアカショウビンの登場を待っていたが、アカショウビンが現れる気配がなかったので、諦めて山を下りることにした.また、明日の朝この場所を訪れることにした.
この鏡池は小さな池なので、池の廻りから至近距離でアカショウビンを狙うことが簡単にできそうだ.ここなら簡単にアカショウビンを撮影することができるので、これから先暫くはアカショウビンの噂を聞きつけた撮影だけが目的のカメラマンたちでごった返すことになるのだろう.
翌早朝、昨日と同じ自然歩道を野鳥の囀りを収録しながら頂上の出羽三山神社へ向かった.昨日の夕刻は羽黒山近辺では野鳥をあまり見かけなかったが、この日の朝は自然歩道の周りではアカショウビンやキビタキ、キツツキ(多分大アカゲラ)のドラミング音などを綺麗に収録することができた.羽黒山の頂上に着くと鏡池の廻りには既に10人くらいのカメラマンが本殿の前に陣取っていた.
私はアカショウビンの鳴き声を綺麗に収録したいので、カメラのシャッター音に邪魔されないようにカメラマンの居ない池の反対側でアカショウビン君の登場を待つことにした.
鏡池の廻りではアカショウビンの鳴き声が常に聞こえてはいたが、鏡池からは大分遠い場所で囀っている様だった.南谷の方からもアカショウビンの声が聞こえていたので、この場所よりも南谷でアカショウビンの登場を待っている方が正解だったのかもしれない.
午前6時になると、鈴を鳴らしながら5名ほどの白装束に身を包んだ行者姿の一行が本殿の前にやってきて、本殿前で一列になってご詠歌のような唱名を唱えはじめた.行者さん達の一糸乱れぬ唱名は見事で、思わず聞き入ってしまった.この方々がどのような筋の方々なのか不明だが、今年は17年に一度行われている御深秘御戸行斎行という巡拝が行われているそうなので、恐らくこの奉仕員の方々なのだろう.
本殿前での唱名はかなり長い時間続いていたが、このような一糸乱れぬ見事なハーモニーを唱えるには日頃から鍛錬していないと無理なのではないだろうか.恐らくこの御深秘御戸行斎行にむけて相当長い間修練してきたのだろう.
神社の関係者からすると、このような神聖な儀式がとり行われている最中でも本殿の目の前で無神経にカメラを構えている人たちはどう見ても祈りの邪魔をする只の厄介者集団でしかないだろう.これ以上三脚を林立させるカメラマンが増えたら間違いなく儀式の邪魔になるので、カメラマンたちは池のまわりから排除されるのではないだろうか.
御深秘御戸行斎行の奉仕員さんたちの巡拝の様子
暫く池の畔でアカショウビンが現れるのを待っていたが、池の上の木の枝には止まってはくれなかった.アカショウビンはカメラマン達が気になって池には近づかなかったのかもしれない.鏡池ではアカショウビンを観察することはできなかったが、代わりに行者さんたちの一糸乱れぬ見事な唱名を聞くことができたのは幸運だった.
鏡池を離れて石段の参道を下り、南谷で野鳥を観察することにした.南谷にはバーダーさんが2名ほど居たが、静かにバードウォッチングをしていたので、落ち着いて野鳥の囀りに耳を傾けることができた.ツツドリやクロツグミ、アカショウビンの囀りが谷間に反射して心地よく響きわたっていた.静かな南谷は野鳥の囀りを収録するにはもってこいの場所だった.
宿の朝食とチェックアウトの時間の関係で早めに南谷を後にしたが、次回はキャンプ場にテントを張って時間に追われずにじっくりと野鳥観察を楽しもうと思う.羽黒山周辺はアカショウビンの密度がかなり高いことが確認できたので、安直なカメラおじさん達が寄りつかないような場所を中心に野鳥の観察スポットを見つけ出そうと思う.
帰りは鶴岡から各駅停車で日本海側の海岸線の景色を堪能しながらゆっくりと帰ることにした.この夏は久しぶりに象潟や鳥海山周辺を訪ねてみようと思う.
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