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2008
剣山へ
剣山縦走登山
初日 [ 11/18 2008 ] : 穴吹駅 → 川上 → 垢離取(コリトリ) → 龍光寺 → 追分 → 一の森 → 剣山
膝の調子が悪く延期していた剣山への登山をこの日決行することにした.1泊2日の行程で三嶺(みうね)まで縦走する予定だが、あいにく季節外れの第一級寒気団がやってきているらしく、今後の天候が気がかりだった.暖かい四国とはいえ標高2000m級の山の縦走なのでそれなりの装備はしなければならないが、雪になるとは思っていなかったので雪山対策はしてこなかった.とりあえず今夜は剣山頂上ヒュッテに泊まり様子をみて縦走を行うかどうか判断することにした.
朝、脇町のホテルを出て穴吹駅へ向かい、そこから剣山への登山口である川上まで運行されている美馬市営のバスで剣山へ向かうことにした.発車予定時間を過ぎても運転手さんが戻ってこないのでどうしたのかと思ったら、駅の方から新聞の束のようなものを持って戻ってきた.この日の乗客は私も含めて3人で、調布(東京)から先祖の墓参りのためにやって来たと言う60代位の男性と色々と話をした.この方も山登りをされているようで、剣山や三嶺の事などを色々と教えていただいた.
途中で農家のおばあさんがジャガイモか何かの袋を抱えてバスに乗り込んできたのが途中から乗車した唯一の客で、車内ではバスの運転手さんも交えた和やかなおしゃべりが続いた.四国一の清流とうたわれる穴吹川に沿って道が続いているが、国道(438号線)とは言え普通車でも通り抜けるのが困難なくらい細く曲がりくねった道で、バスの運転手さんはとても器用にカーブをこなして進んで行く.
集落のある地域に入ると民家の前で何度もバスを止めるので乗客でも乗せるのかと思ったらそうではなく、何と運転手さん自ら穴吹駅で積み込んだ新聞を民家の新聞受けへ投函していた.田舎では郵便屋さんが新聞を配達している光景はよく見かけるが、バスの運転手さんが直接新聞配達をしているのは初めて見る光景だった.
道路沿いにあった『閑定の滝』という名勝地では、運転手さんがわざわざバスを滝の入口に駐めてくれて滝見物をさせてくれた.こういう長閑なバスの旅も良いものだ.補助金などの打ち切りで次々に地方のバス路線が廃止されて行く中、この路線もそのうち廃止になるのではないかと心配になった.
運転手さんが頻繁にどこかと無線で交信しているので、訳を尋ねてみるとこの付近では国道のスムーズな通行を図るために、バスやトラック、ダンプカーなどの事業系の車両はお互いに無線で連絡を取り合ってすれ違いのできない区間でかち合わないように調整しているのだという.こんな山間の狭い道路で対向車とガチンコになったら身動きが取れなくなって大変なことになる.なるほどと感心した.
4人居た乗客も、終点の川上に着くまでには私1人になっていた.川上から先は穴吹川沿いに垢離取(コリトリ)という所まで国道438号線を上っていく.垢離取という地名は昔この場所で剣山へ登るために垢を落として身を清めたことから付いた名前らしい.昔は垢離取から登山道を登っていくのが剣山へのメインルートだったらしいが、今は見ノ越まで車で行き、そこから登山リフトを使って剣山へ向かうのが主流のようだ.
垢離取で国道438号線を離れ、登山道のある林道へ入って行った.垢離取の谷を挟んで反対側の山の斜面に国道438号線の曲がりくねった道路が見える.こんな山の斜面によくもまあ舗装道路を作ったものだと感心した.感心したというよりは呆れたといった方が正解かもしれない.
暫く林道を上って行くと、やがて斜面を蛇行する林道をショートカットする形で登山道が付けられていた.この登山道はあまり歩く人が居ないのか、急な斜面の崖をトラバースする所では足の踏み場が崩れていて歩き難かった.
垢離取から1時間ほどで龍光寺というお寺に着いた.境内では大工さんが二人で本堂の大きな柱の付け替え作業をしていた.ポツポツ雨が降ってきたので、本堂の縁側を借りて暫く雨宿りさせて貰うことにした.大工のおじさん達とこの辺りの土地の事や、イノシシ猟、剣山へ登山ルートの事など色々面白い話をさせて貰った.
休憩がてら20〜30分ぐらい雨宿りしてから再び登山道へ向かった.登山道はお寺のすぐ裏山を通っていて、お寺の上には剣山本宮という小さな神社の社が建っていた.雨は相変わらずポツリポツリ降っている.気温が下がってきたせいか雨がやがてみぞれに変わってきた.標高が高くなるにつれて廻りの木々もすっかり枯れてしまい、地面は落ち葉で埋もれていた.うっすらと積もった雪と緑の苔のコントラストが何とも言えなく美しかった.
龍光寺から50分程で追分という分岐点に到着した.ここを右へ行くと修行場を通って剣山へ、左へ行くと一の森方面へ行く.私は一の森経由で剣山へ向かうので左へ進路を取る.このころから雪と風はだんだん強くなり吹雪の様相を呈してきた.やがて尾根沿いの笹藪が広がっている見通しの良さそうな場所に出たが吹雪で視界は効かない.
時折吹雪の合間をぬうように山の稜線が顔を見せる.直ぐにまた吹雪で見えなくなるが、写真で見ていた剣山の光景を見ることができて嬉しくなった.追分から1時間程で一の森ヒュッテに到着した.残念ながら一の森ヒュッテは 11月3日で今年の営業を終了したらしく、中で休んでいくことはできなかった.
ヒュッテにあった温度計はマイナス2度を差していた.ヒュッテの直ぐ側に一の森避難小屋があったので中を覗いてみた.コンクリートの枠で囲まれた立派な囲炉裏と薪などが置いてあり、この小屋で暖を取ることができるようになっていた.とても快適そうな避難小屋だった.
一の森を出て今日の最終目的地である剣山へ向かった.ここから剣山までは比較的緩やかな尾根道が続き、登山道の周囲には植物に関する説明板も多く、植物好きの人にとってはとても楽しめそうなコースだった.岩にうっすらと積もった雪がとても滑りやすく、注意して歩かないと転びそうだった.二の森のピークを過ぎるとやがて目指す剣山のなだらかな斜面が見えてきた.
一の森から剣山までは40分程で到着した.頂上付近は笹や植物を保護するための木道が整備されていたが、私の歩幅と上手く合わず、木道の上を歩くのに苦労した.無人の測候所(現在は完全に廃止さて観測も行われていないそうだ)を迂回しながら一等三角点のある頂上に辿り着いた.三角点の廻りには太いしめ縄が飾られており、とても大切に祀られて?いた.今まで見てきた三角点の中でも一番立派な三角点かもしれない.三角点ハンターであれば絶対に外せない一品かもしれない.
頂上付近の木の枝には出来損ないの霧氷が付着していた.晴れていれば素晴らしい下界の展望が開けるところだが、あいにくの吹雪で何も見えなかった.ヒュッテに入り暖かいお茶をいただき、やっと一息付くことができた.宿泊手続きを済ませ部屋に案内して貰う.他に宿泊客は居ないので、9畳くらいある部屋を一人で使わせていただいた.
剣山頂上ヒュッテ名物のお風呂に浸かり冷えた体を温める.こんな山の上でお風呂に入れるとは思っても見なかったが、数年前まで気象庁の有人の測候所があったので、電気と水道が頂上まで引かれているのだそうだ.
夕方近くに一時的に雲が取れ下界を見下ろすことができた.素晴らしい眺めだった.肉眼ではあまり良く見えなかったが、はるか遠くの瀬戸内海が見え瀬戸大橋を確認することができた.
この日は私の他に昨夜から、美馬市の防災用のリモートカメラ(頂上ヒュッテに設置されている)のトラブル対応で来ていた ITエンジニアさんも泊まっていた.昨夜もこのヒュッテに泊まって今日一日作業をしていたらしいが解決しないので、今夜もここに泊まって明日も引き続き作業をするという.
この日は頂上ヒュッテ自慢の夕食(旅館並みのちょと贅沢な食事です)をいただき、食堂のストーブの周りでヒュッテの女将さんやおばあちゃん達と共に楽しい一時を過ごさせていただいた.
外は強い冷え込みで部屋の窓はガチガチに凍り付いていた.明日は天気が回復することを願って早めに床に就いた.